それぞれの運命

さて、ひととおりISISを追い払ったイラクのクルド人自治区が、独立を目指すと発表し(過去記事:)、さらに、やはりISISを追い払ったシリアのクルド人は、トランプレストランを開いて全力で親米アピール(過去記事:)…そして、トルコは、クルド人の勢力拡大を恐れて、シリアのクルド兵を叩いていると…そんな中、やはり、事態をおさめるために、着々と動いていたのは、ロシアでした。

シリアのクルド人政治家とアサド政権の仲介

位置関係:Hmeymim Air Base

Hmeymim Air Base

交渉の舞台となっているのは、ロシアがシリアに置いているHmeymim Air Baseだというので、空軍基地だそうですが、シリアのクルド人政治家に接触したロシア側は、そこの基地に連れて行って、話し合いをしているのだとか。
実は、クルド兵が除外された停戦合意をやっていた12月下旬に、クルド民兵24派閥(どうしてそんなに派閥が分かれているんだ)を招いて、話し合いをしていたとか。
その中には、トルコがテロリスト認定をしていて、現在も攻撃中の、PYDも含まれていたという。
へー。
これはなかなか、微妙な事態になっている。

どうやら、ロシアは、アサドのシリア政府と、シリアのクルド人の仲介をして、クルド人に自治区を持たせ、ロシアが保証人になるという方向性だそうです。
どうして保証人が必要かというと、アサドが、自分に逆らって軍事行動をしてきたクルド人を、本当に「許す」かどうかは、わかりませんから、まとめて殺すとか、強制収容所に入れるとか、そういうことをさせずに、クルド人には、穏便に自治権を与え、シリアという国の中の一部としておさめると、そういうことのようです。
トルコが嫌がっているのは、トルコ国内のクルド人勢力(テロリスト化している)や、イラクのクルド人自治区と結びついて、領土を切り取られることなので、そういうことにならないという保証があるならば、つまりシリア国内で自治区を持てれば満足だ、ということであれば、「シリアにクルド人の国ができることは認めない」と言っているトルコ側も、なんとか説得のできる可能性が、あるのかもしれない。
最近のユーフラテスシールド作戦(トルコがシリア国内に入って北部のクルド兵(PYGなど)を攻撃している件)でも、トルコ軍側は、「シリアの一部に戻れ」というふうに呼びかけていたそうなんで、ここらへんには、(トルコと)ロシア側との打ち合わせが、できている可能性が高いですね。
クルド人の政治家は、こう言っているそうです。
"We have made a decision to come to these negotiations because Russia has voiced of its role as guarantor of this negotiation process," he said.

「交渉をしてみようと思ったのは、ロシアが保証人をしてくれると言ったからだ」

He further explained that Russia has an opportunity to have effect on the Syrian government which is uneager to grant certain rights to the Kurdish people. "Russia is telling us: voice your suggestions and we will discuss them with the Syrian government. If Damascus offers to grant you autonomy, agree to it. The status of autonomy is a good opportunity in current circumstances," the politician said.

彼はさらに、シリア政府は、クルド人に自治権を与えたがらないはずだが、ロシアはシリア政府に影響力を持っているから、「ロシアはわれわれにこう言った:どうしたいのか、きみたちの意見を言ってくれれば、われわれがシリア政府と話し合うから。もしも、シリア政府が自治権を与えると言ったならば、同意したほうがいい。自治権は、この状況では、いい条件だと思う、と」
確かに、アサドを倒そうとして、アメリカの力を借りてまで、軍事闘争をしてきたわけですから、それを「無条件で許す」うえに、「自治権を与える」となると、シリア政府側には、かなりの譲歩ということになります。
ただまあ…現実的には、クルド人は、兵隊ばっかりじゃないので、普通の人や、女子供もいますから、全員を刑務所に入れるとか、強制収容所に入れるとか、そういうことは、かなり無理のある話だろうと思います。
だから、ロシアが「そういうことはさせない」ということで、保証人になって、クルド人たちに信用してもらえるかどうか、ということですね。
たぶん、現段階では、クルド人側は、「騙される」と思っている人も、けっこういるでしょうし、さらには…今後、アメリカ等の「邪魔」が、入るはずなので、どうなっていくのかは、わかりませんが、なにしろ、クルド人というのは、落ち着いてもらわないと、いつまでもここらへんのゴタゴタが、おさまらないんですよね。
ロシアにとっても、「超親米」のクルド人を懐柔するいいチャンスです。
前にも書きましたが、クルド人というのは、イスラム教徒なのに、超親米ですから、アラブ世界にとっては、「スパイ」みたいなものなんですね。
浮いている、と。
どうしてそうなったのかって、もともと、自分たちの国がないから、迫害されたりして、落ち着かなかったから、西洋人の力を借りて、その手先になってでも、浮かび上がろうとしていたんです。
しかし、力があるならば、相手はロシアでもいいわけですよ。
そして、シリアのクルド人についていえば、アサドに言うことを聞かせることができるのは、ロシアだけなので、アメリカ以外に頼るとしたら、ロシアしかない。
そんなわけで、普通のクルド人が、「トランプレストラン」を出して、親米アピールに一所懸命になっているいっぽうでは、政治家たちは、ロシアに保証人になってもらって、アサドから「恩赦」を得て、自治区になろうとして、黙々と交渉に励んでいる、と。
シュールですよねえ。

いっぽう、イラクでも

Iraqi Kurdistan
来年は独立を目指す…と、昨年暮れに宣言したイラクのクルド人自治区の「首相」なんですが、クルド民主党の政治家(Ali Avniさん)の話によると、そっちも、イラク政府との交渉が進みそうだと。
ISISが占領していたモスルからは、ほとんど追い出したので、いよいよ独立できる、と。
現在、ここの人口は、600万人だそうです。
するとだいたい、東京の半分くらいか。
mosul
「首相」のMasoud Barzaniさんは、すでに、イラク首相のHaider Al-Abadiほかと、交渉を始めているとか。
イラク政府の反応がよければ、自治区内での国民投票をやる予定だそうです。
どうも、ここの自治区は、前にも言いましたが「こぶしを握り締めて、独立するぞー!」ではなくて、「平和的に独立したい」ということであって、そのための武力闘争をする気などは、ないというんですね。
Ali Avniさんによれば、「イラク政府さえいいと言えば、ほかの国は、ダメとは言えないと思う」と。
"After we proclaim the independence of Iraqi Kurdistan, we will build good neighborly relations with our immediate neighbors. The Kurds do not want to quarrel with anyone and we seek to develop friendly ties with Turkey, Iran, Iraq and Syria," he concluded.

「イラクのクルド人として独立を宣言したあとは、われわれは、近隣とはよい関係を築くつもりだ。クルド人は、誰とも争いをしたくない、われわれは、トルコや、イランや、イラクやシリアと、友好的な関係を築きたい」
この人が、クルド人自治区の平均的意見の人なのであれば、これはちょっと、かなり違うというか、トルコともイランとも、敵対するつもりはないとなるとですよ、親米だからと言って、でっかい基地を作らせて、THAADを置かせて、イラン潰しのための不沈空母になるとか、そういうことは、あんまり考えにくいですね。
なので、今のところ、ロシア政府が口出しをしているふうではないんですが…たぶん、シリアのクルド人のほうも対処をしているんだから、こっちも、ほったらかしにはしないで、裏で何かしているというほうが普通…かもしれないな。
ここの自治区は、イラク政府を通さずにアメリカに石油を売っている件など、きな臭い話はあるようなんですが。

壊す人と、片付ける人

なにしろ、アメリカがここらへんの地域でやったことは、「破壊」だけ。
ロシアは、そのあとの「始末」をやらされて、なんかまあ、なんなんですかね。
さらに、片付けようとすれば、イスラエルやEUと3つ巴になって、いちいち邪魔をしてくる、みたいな。
壊す人と、片付ける人、みたいな。