トルコ「EUが反トルコ政策を続けるなら、移民をヨーロッパに送りつけるぞ」

EUがアンチトルコを続けるなら、移民をヨーロッパに送ってやるとエルドガンが通告(Sputnik誌より)

erdogan
ひさびさのトルコ関係です。
トルコについては、例の7月のクーデター以来、けっこう気にするようにはしているんですが、興味のある人は、過去記事のトルコ関係をご覧ください。

つい笑ってしまった

今回の記事を見て、思わず「あはは」と笑ってしまいました。
…まっ、そういうふうに、「自分なりの反応」が持てるようになると、ちょっと面白くなってくるんですね。
「よその国の誰が何をしたか」とか、そういうことを知って、笑ったり驚いたり、「そうなると思っていた」とうなずいてみたり、そういうことができるようになると、外国のニュースを見るというのは、少しでも苦にならなくなってくるものなのです。
人間は、「わかること」を面白いと感じる生き物なので、わけのわからないもの、自分には理解ができないものについては、「つまらない」というふうにしか思えない。普通は。
だから、つまらないことは、しなくなるわけです。
なので、外国で何が起こっているのかということを知らないまま、何かに巻き込まれて、いつの間にか、狙われて人質にされているとか、大金を出させられるとか、戦争になっているとか、食糧難で飢えてしまうとか、そういう目に遭ってしまう。
どうしてそうなったのか、わからないけど、とにかくなったから、「自然災害」のように対処するんですね。
でも、自然災害ではない。
自然災害ではないなら、ある程度は、対処はできるんです。本当は。
でも、知らないから、しない。
しないから、ひどい目に遭ってしまうし、さらに、誰のせいでそうなったのかも、わからない。
もともとわからないので、あとから振り返って、いろいろ考えてみて、「今度は、こういう目に遭わないようにしたいな」と思って、手を打つということも、できない。
なので、「そういうことができそうな人」を、政治家に選ぶということも、しない。

わからないから冷笑主義に走る

「わからないからつまらない」「つまらないからしない」ということのもうひとつの弊害は、「冷笑主義に走る」です。
日本語のネットは、政治社会問題関係についてコメントをする人のうち、たぶんですが、8割くらいがこうなっている。
中身のあることが言えないから、とにかく「無難に冷笑しておけ」になって、それも短文になる。
短く冷笑、ほとんどの人がこれをやっている。
こういう人たちは、中身のあることが言えるようになったら、短文冷笑主義には、ならないはずなんです。
だから、短文冷笑主義からの脱却への第一歩というのは、まずは「わかるようになること」なんですね。

外国のニュースに慣れなければならない

私だって、わからないことだらけですけれども、少しでも手掛かりを得れば、「エルドガンがそんなことを、あはは」みたいになることもできる。
だから、わからない人でも、少しずつでも感触をつかんでいくこと、そして、少しでもわかるようになってきたら、それは「面白い」と思えるようになっているときなので、そうなれば、なんとなくでも外国のニュースを見る気になる、そういうものだと思います。

トルコとEUの関係悪化の背景

前置きが長くなりましたが、とにかく、今回はなんなのかというと、過去記事でも触れたように、最近、トルコとEUの関係が悪くなっている。
Turkish President Recep Tayyip Erdogan threatened on Friday to open the country's borders for refugees to cross into Europe if the European Union continued its anti-Turkey policies.

トルコの大統領エルドガンは、金曜日に、もしもEUがアンチトルコ政策を続けるなら、国境を開放して移民を欧州に行かせるぞと脅した。
どうしてここまでなったかというと、それは、EUが木曜日(だからこの前日ということ)に、トルコのEU加盟の申し込みについての話し合いを無期限凍結するという議決をしたからなんですね。
EU議会はトルコ加盟の無期限凍結を決議
The 751-member legislative body voted 479 in favor and 37 against the non-binding resolution in a roll-call broadcast on the EP's audiovisual service. A total of 107 EU lawmakers abstained.

751人の議員のうち、479人が賛成、37人が記名投票に反対、107人が棄権。
大変だ、こうなると、執念深いエルドガンは、誰がどんな票を入れたとか、絶対に、しっかり調べている。
そして、どういう票を投じたかによって、その相手への今後の扱いが変わる笑。
今回のEUの決議は、表向きには、クーデター後の残党狩りが厳しすぎる件と、エルドガンの言論弾圧への懸念ということのようですが。
あとは、死刑復活への動きも懸念だと。
…そういうのは、表向きですね。たぶん。
主には、アメリカの意向、トルコがシリアでクルド兵を空爆して、アサド政権側の味方をしている、あとは、公然とロシアと接近を始めたこと。
だから、面白くないし、放置できないと。
トルコは、これまでは、親米で、親西側世界と見られてきましたが、最近、言うことを聞かなくなったので、その「お仕置き」でしょう。

トルコは、ずっと、EUに入りたいと思って、そのために死刑も撤廃していましたが、しかしまあ、最近は、クーデターの責任者を罰するために、また死刑をやろうかなとかも、言っている。
取りあえずはまだ、廃止中。

移民受け入れに最も関係するのは、宗教

"We accept 3 million refugees and you start groaning when 50,000 people attempt to enter [into the EU]. Listen, if you go further, you should know that these border crossings will be opened," Erdogan said in remarks broadcast at a women's congress in Istanbul.

「われわれは300万人の難民を受け入れるというのに、君たちは5万人がEUに行くというだけで大騒ぎしているのか。いいか、君たちがこれ以上やるならば、国境が開かれるだろう」 エルドガンは、イスタンブールの女性議会でこのように述べた。
前から言っているように、移民受け入れに、一番モノを言うのは、宗教なんです。
本来は、イスラム教徒は、イスラム教の国で受け入れてもらうのが、行く側も、受け入れ側も、一番いいんです。
そして、キリスト教の国は、イスラム教徒は、文化に馴染まないとか、テロを起こしたりするから、これ以上、移民として受け入れるのは、どうしても嫌だと。
もちろん、エルドガンは、そこらへんのことはじゅうじゅうわかっていて、300万人とか5万人とか言っているんです。

強気の欧州、内情は火の車

…本来なら、イスラム教徒の中東移民がEUに行かないように、トルコで受け入れるという条件でもって、3月にEUから大金をもぎとって、トルコ国民のEU内ビザなし通行もできるようになったんだから、「関係が悪くなる」というなるほうが、不自然なんですね。
それでは、どうしてそうなっているのか。
理由はいろいろあるんですが、
  1. 7月のクーデター以来、エルドガンのアメリカへの不信感が増大(アメリカが主導したのではないかと)
  2. EU(というかNATO)はほぼアメリカの言いなりなので、EU諸国特にドイツ(最もアメリカの言いなり)にも不信感
  3. いっぽうでは、トルコは、クーデター鎮圧以来、ロシアとの関係が劇的に改善
  4. そんな中、なぜか、ドイツ連邦議会が、100年前のオスマン帝国の虐殺事件を非難決議
  5. トルコはこれに激怒して正式に抗議、さらに、ドイツ議員のトルコ訪問を断ったり、冷たく扱う
  6. オランド(フランス大統領)がロシアを挑発したため、怒ったプーチンが訪仏をキャンセルし、いっぽうではトルコを訪問
  7. EU側は、ドイツ議員の扱いがおかしい、トルコの態度がおかしすぎると言って、非難を始め、関係が改善しないまま、今回の決議になだれ込む
  8. エルドガンは、そんなことを言うなら、移民をヨーロッパに送ってやるぞと脅した
…で、今は8になったところです。
なので、ちょっと笑っちゃったなと。
「中東移民」というのは、今の欧州の人たちの最大懸念事項なんです笑。
中東からの移民を減らせるかどうかで、一喜一憂しているし、EU内での内輪もめも始まっている。
だから、中東移民をどうするかで、政権さえ倒れかねない。特にドイツとか。フランスとか。
フランスでは、最近はもう、オランドの不人気ぶりがハンパなく、絶不調なのだそうです。
メルケルは、再選に出ると表明しましたが、前にも紹介したように、アフリカ行脚をやって(過去記事:)、移民をトルコに送ってくれ、EUには送らないでくれと、頼んできたばかり。
エルドガンは、それをわかっていて、こういうふうに言っているんですね。
だから、ものすごく面白い。

「デキる男」であり、「ひどいヤツ」でもある

前にも書いたように、エルドガンの評価というのは、難しくて、いい人とか悪い人とか、そういう話ではないんですね。
独裁者という意味では、安倍普三と並べて語られることも多いですが、エルドガンは、政治家としての器量は、安倍とはまったく違います。
この2人を「並べる」ということは、適当ではない笑。
彼には、とにかく、今のトルコが直面しているような「ものすごいややこしい難局」を、乗り切るだけの能力がある。
ただし、それが「どこまで正しいのか」ということを考えるのも、なかなか難しい。
「誰にとってトクなのか」という視点によって、「デキる男」なのか、「ひどいヤツ」なのかという評価は、まったく違ってきてしまうからです。

今後の中東移民の状況はどうなるのか

前から何度か紹介しているように、中東情勢というのは、ここに来て、かなり劇的に動いているし、これからももっと変わる。
トランプ当選の「前」から、すでに変化は起こっていたんです。
  1. プーチンの全面介入
  2. 中露の接近
  3. オバマの任期切れが迫る
  4. フィリピンに反米大統領誕生で、中東政策を批判
  5. 米露が密かな報復合戦の挙句に、国連で激突
  6. このへんのいつかの時点で、アルヌスラは化学兵器の使用を開始(たぶん)
  7. レバノンに親イラン政権誕生
  8. トランプ当選
  9. イスラエルがシリア軍を直接攻撃
  10. オバマがアルヌスラ掃討を指示
…で、今は10のとこまで来ている。
そして、トランプの当選によって、米露の交渉窓口が開かれ、今後は、アメリカは、ロシア+シリアと協力してISISの残党を潰し、ある程度それをやったら、シリアから撤退でしょう。
そして、アサド政権を承認する。
たぶん、そうなる。
だからこそ、オバマは、トランプ当選後に、いきなりアルヌスラの始末を決定(過去記事:)。
上のようになる可能性が高いんですが、それまでに、自暴自棄になった「頭が病気のイスラエル」が、なんかとんでもないことをしなければ、の話ですが。

ISISが壊滅したあとは、何が起こるのか

こうなった場合に、「そのあと」は、どういうことが起こるのか。
つまり、ISISが(ほぼ)壊滅させられて、シリアにもイラクにも居場所がなくなったあとです。
ISIS関係者を、すべて逮捕してくれれば、それが一番いいんですが、たぶん、その前に逃げる人のほうが多いはずなんですね。
戦況が悪くなって来れば来るほど、逃亡兵が増えるというのは、これはどこでも同じ。
その人たちは、どこへ行くの?

中東移民(含むテロリスト)は西ヨーロッパを目指す

ロシア系のSputnik誌は、それについて、見解を述べていますね。
Far From Over: 'Terrorists Will Spread Across Europe After Daesh's Destruction' 「終息」からはほど遠い:テロリストたちは、ISISが壊滅したあとは、欧州に拡散する
その人たちは、ほぼ、ヨーロッパへ行くはずだと。
そして、一番には、西ヨーロッパの、先進国、福祉の厚い国へ入り込むことを目指すとしています。
その途中の「そんなにオトクではない国」というのは、基本的には、「通過する」らしいんですね。
もっと福祉の厚い国を目指しているから、トルコとか、ギリシャとか、その他東欧の「けっこう貧乏な国」に「落ち着く」というつもりは、あんまりないんだと。
そういう国は、もっと「先」へ行くための通過点。
そして、それを嫌ったイギリスが、EUを離脱したと。

セルビアの難民キャンプmigrant2
…まあ、その西ヨーロッパの国は、トルコにお金を払って、そっちで引き取ってくれるように頼んであるというわけなんですが、「来るほう」にしてみたら、トルコに永住なんかしたいわけじゃないんだと。
もちろん、テロリストの残党ではない普通の難民の人たちのほうが多いでしょうが、ISISが壊滅すれば、その中に紛れて、そういう人たちがやってくると。
だから、今後の展開としては、「元テロリストたちが、西ヨーロッパの先進国に拡散して、分布する」というのが、妥当な見通しですね。

現段階のEUには、トルコに冷たくするという選択肢はない

なので、現段階で、エルドガンが、「そんな態度を取るなら、中東移民を欧州に流してやるぞ」と言って脅すのは、ものすごい効果があるんだなということが、わかったと思います。
まあ、現実的には、EUは、そう言われてしまったら、とにかくトルコを大事にして、怒らせないようにするしか、方法はないでしょう。今の段階では。
「誰か」が、トルコでクーデターを起こして、「エルドガンじゃない、もっと言うことを聞く人」に変えようとしたけど、失敗したんですから。